製品に詳しくなくても、名前だけでどんな製品なのか汲み取れる。一方、手が込んだ製品でも、すぐには気が付かない製品もある。その製品の一つがGear Sだろう。不慣れな名前を広めるためにかなりの数量を注ぎ込んだが、マニアでない限りGear Sという名前をスマートウォッチとマッチさせることは簡単ではなかった。
確実な解決策の一つは名前を変えることだ。しかし、掌を返すよう、簡単に決定を下すわけにはいかない状況だった。数年間ウェアラブル専門ブランドだったGearの代表製品であるGear Sシリーズを変えることは大きな冒険にほかならないからだ。
しかし、サムスンは過去よりこれからの未来を選択した。そして新たな名を付けた。その名はギャラクシーウォッチ(Galaxy Watch)。サムスンがウェアラブルブランドであるGearは深い墓に埋め、選択した新しい名前だ。
典型的なデジタル製品パッケージ
ぶっちゃけ、サムスンを時計専門ブランドと捉える人はいないだろう。しかしデジタル製品に限っては世界有数のメーカーである。ここで質問、サムスンのスマートウォッチはどう評価すればいいのか?
この質問にはサムスンが答えるべきだが、私はサムスンのスマートウォッチパッケージが醸し出すデジタル感満載な感じがいつも気に染まなかった。もちろんディスプレイに表示されるスマートウォッチ特性は理解している。しかし製品とともにビニールに包まれている各種付属に説明書が入っており、ザ・典型的なデジタル製品パッケージという感じはいつも腑に落ちない。
Galaxy Watchパッケージと従来のGear S2のパッケージの違いと言えば、立方体に変わったことだ。他に大きく変わったところはない。パッケージを開けるとすぐGalaxy Watchが目に入る。ヘッドを取り出すとビニールに入れた充電アダプターやケーブル、ストラップそして小さな説明書が入っている。相変わらずの構成だ。ディスプレイとヘッドが傷つかないよう使い捨てのフィルムも既存の構成を維持している。
デジタル製品として揃うべきものはすべて入っており、充実した構成ではある。しかし、充実した構成だけではデジタル製品臭さは隠せないことが問題だ。大量生産システムによって作られたものから感じる抵抗。見慣れたものからは感じられない新鮮味。新しい名前の時計を披露するという意気込みは伺えない。
立派な基本時計画面、秒針の音
Galaxy Watchがベゼルを回すGear S2、S3の遺伝子をベースとしているのは当たり前だ。ベゼルを回せるスマートウォッチのストーリは特許により、唯一サムスンだけ語ることができるからだ。ただ、Galaxy Watchの基本骨格はGear S3と似ている。360x360ピクセルの1.3インチ型AMOLEDを搭載した46mmモデルは、回転ベゼルと2つのボタン構造を変えなかった。ただ、より斜めに傾けた上に、広くなった回転ベゼル、小さくて鋭い形のベゼルスプロケット、ツヤ感を出したシルバーのヘッドで雰囲気の変化を図った。Gear S3のユーザーならすぐ気付くだろうが、鈍い人には似たような感じだろう。
見た目の変化はそれほどなくても、いざGalaxy Watchを覗き見ると競合よりスマートウォッチ事業が長かっただけのことはあると感じる幾つかの仕掛けがある。何よりGalaxy Watchはデジタル式のニセ時計だが、アナログ腕時計の特徴をデジタルデバイスに織り込むために工夫したポイントは至るところにある。
まず、基本ウォッチフェイスに相当念を入れた。従来のS3の基本ウォッチフェイスも他のスマートウォッチよりは良かったが、Galaxy Watchでは更なる効果として時計を見る角度によって内側のサブダイヤルやインデックスから陰影が感じられるようアニメーション効果を適用した。またウォッチフェイスごとにカラーやサブダイヤルの機能変更が可能で、ユーザーに必要な機能にカスタマイズできる。ほとんどの基本ウォッチフェイスがGalaxy Watchに合っている上に、デバイス自体の性能も効率の良い仕上がりになっており、製品の完成度を高めた。
ここに秒針の音を初めて適用した。基本ウォッチフェイスで秒針の音をONにし、耳を傾けると「かちかち」と慌ただしく動く秒針の音が聞こえる。静かな部屋に寝転がり時計を見るときも耳を立てていると秒針の音が自然に耳に入ってくる。残念なのは音の種類が一つだけということかな。時計ごとに異なる秒針の動きに合わせて秒針の音も選択できたらよりよかったのではと思う。
大容量のバッテリーと機能に勝負がけ
Galaxy Watchには時計専用モードというものがある。時計専用モードはGalaxy Watchの機能をすべてOFFにし、インデックスと時分の針のみを表示することで長時間使用できるモードだ。このオプションをONにすると再起動するが、それからおよそ42日間充電することなく使うことができる。
しかし、敢えて時計専用モードにしなくてもGalaxy Watchならバッテリーのことで心配することはない。一回の充電で最短2日、最長3日は十分使えるからだ。バッテリーの容量は472mAhと、Gear S3の380mAhから88mAh増しになった。増えた容量に省エネプロセッサーの管理能力がバッテリーの効率性を高めた。
但し、ワイヤレス充電器で充電したGalaxy Watchの付け心地はあまり良くない。充電中に発熱した熱がすぐには冷めず、手首に付ける際その熱がそのまま伝わるからだ。冬であれば手首を温める「ホッカイロ」だと前向きに捉えることもできそうだが、猛暑にはゴム材質のストラップも加え、イライラさせる原因になりかねない。Galaxy Watchとドゥカティストラップを一緒に手に入れた消費者はラッキーなわけだ。
Galaxy Watchは、時計的機能よりスマートデバイスのアイデンティティ面で遥かに優れたものである。もちろんIP68という防塵、防水レベルは競合のスマートウォッチと変わらないが、精度を高めた心拍数センサーと高度・気圧計、走る間のルーティンを記録し位置情報を込めた機能の完成度はGalaxy Watchの勝ちに違いない。Samsung PayはGalaxy Watchでも使えるがMST機能はなく、NFCのみとなっている。NFCを基盤とした機器が増えてはいるが、当然ながらNFC決済機器がないところでは使えない。
Galaxy Watchには初めて搭載されたサムスンのAIアシスタント「Bixby」はONボタンを2回押すとすぐに呼び出せる。天気や為替、最寄り駅やコンビニの情報など簡単な質問への対応はかなり優れている。接続した携帯を出さずに、Galaxy Watchから電話をかけたり、メールを送ることも簡単だ。複雑な質問は検索結果を表示し、スマートフォンで確認することを勧める。ただ騒音が多少ある所や小さすぎる声で質問すると聞き取れないことも少なからずある。ラーニングを重ねれば重ねるほど能力が向上するから、忍耐の時間を要するが、昔のSボイスに比べるとGalaxy Watchの「Bixby」は相当良くなったものだ。
長所
- 完成度が更に高まった機能と基本ウォッチフェイス
- 1日充電し忘れても、翌日まで持つ大容量バッテリー
短所
- 思い切って変えた名前の割には消極的な変身
- 依然として量産型のイメージが強いパッケージ